私、社長ではなくなりました。 – 安田 佳生 (書評・レビュー・感想)

【この記事の所要時間 : 約 4 分

私、社長ではなくなりました。 ― ワイキューブとの7435日
安田 佳生(やすだ よしお)
プレジデント社

「熊本への出張からの帰り、私は東京の品川駅前の喫茶店で役員二人と落ち合った。最後の役員会をするためだ。2011年3月10日。東日本大震災の前日のことである。このまま会社を続けていくのか、それとも民事再生に踏み切るのか。熊本から帰る飛行機のなかで、私の腹は固まっていた。……ワイキューブは私たちが子どものように夢を見てつくった会社である。私たちは本当に子どもだった。そして私利私欲の塊だった。なぜ私たちが会社をつくったのか。なぜこんなにも、むちゃくちゃな経営をしたのか。そして、なぜ破綻させなくてはならなかったのか。そのことを、きちんと話さなくてはならないと思う。」まえがきより

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書評・レビュー・感想

ワイキューブが倒産したニュースがヤフーニュースに出た時には少し驚いた。著者の安田佳生さんの本をいくつか読んだことがあったが採用支援ビジネスで儲かっているというイメージだったからである。ワイキューブは、リクルートエイブリックの中小企業版というイメージだった。
その時からもう2年以上もたったので実際の事業内容はどうだったのだろうか?という興味本位で読んでみた。倒産ドキュメントとしては非常に面白いと思う。率直に書かれているし、ある意味オープンでもある。それが等身大の親しみやすささえ感じさせる内容となっている。
ワイキューブの事業はどうだったのか?といえば、事業ドメインはいいし、実際に数十億の売り上げが立つ市場に参入している。しかし、ここまで数字に弱いのか?と思えるほどのどんぶり計算でやっていたようである。勢いがある時には見えなかったものがそうでないときには見える。著者の前著などを読んでファンになっていた人もいたかと思うが、目が覚めた気持ちではないだろうか。
中小企業とベンチャーの違いは、中小企業の目的が「存続すること」であり、「負けないこと」であるが、ベンチャーの目的は「拡大すること」であり、「勝つこと」である。その意味でワイキューブはベンチャー志向だったと言える。しかし、ベンチャーであれば、銀行からの借り入れではなく、エクイティファイナンスをすべきだったと思う。そして、ベンチャーであればこそ、目標を達成する前に社員の給与をあげる必要はなかったはずだ。
そういう意味では、売上という意味では「ベンチャー志向」でありながら、社員への報酬は「大企業または優良中小企業志向」であり、ちぐはぐだったと言わざるを得ない。
堅実な経営をしている中小企業はなかなか拡大できない。それは事実である。ワイキューブは堅実な経営をしていれば、優良な中小企業になる可能性はあったと思う。ただ著者には堅実な経営ができなかった。
拡大を目的とするベンチャー志向の企業を経営するなら自身の担保を超える金額を銀行から借り入れるべきではないと思う。もちろん貸した方にも責任はある。拡大するということは、レバレッジをかけて勝負をかけるということである。そして勝負をかけるということは負けることもあるということであり、レバレッジをかけていれば負けやすい。
逆にいえば、著者も破格の融資が存在しなければ、こんな経営もできなかっただろう。多くの中小企業はしたくともできない。安易に借りることが経営者にとって毒となることもあるという実例だろう。
著者が今後どうするかは本書からは見えなかった。経営者として復活することもそのつもりもないように感じた。反省している内容ではなかったので、ワイキューブの倒産で被害にあった方は腹立たしく感じただろうとも思う。
メディアなどで華やかに見えたある企業の実態というドキュメント本としてはおススメである。ビジネスに活かせるものはあまりない。

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