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キャバレーのホステスになった修道女の身も心もボロボロの手紙、上京して主人の毒牙にかかった家出少女が弟に送る手紙など、手紙だけが物語る笑いと哀しみがいっぱいの人生ドラマ。
書評・レビュー・感想
以前、森見登美彦氏の「恋文の技術」を読み、自分は書簡集形式の小説が好みであると感じ、同様の小説を探して見つけたのが本書である。はっきりいって、「さすが、井上ひさし」の一言である。
本書は、手紙による13の短編が集めたものであるが、一風変わった味わいのある作品が多かった。ユーモアあり、粋な趣向あり、どんでん返しありとページ数は少ないがゴージャスな読後感であった。最近では手紙をやりとりすることなどほとんどなくなったが、手紙の文字から浮かび上がる情景やストーリーに空想が膨らみ、わくわくして読み進めた。
見事な短編集といえよう。せっかくなので、本書に含まれている短編のタイトルを書いておきたいと思う。
・プロローグ 悪魔
・葬送歌
・赤い手
・ペンフレンド
・第三十番善楽寺
・隣からの声
・鍵
・桃
・シンデレラの死
・玉の輿
・里親
・泥と雪
・エピローグ 人質
この中でも「赤い手」、「隣からの声」、「シンデレラの死」がよかった。手紙というのは不思議な魅力があり、手紙が持つ力を改めて感じた次第である。手紙は言葉の贈り物。過去に読んだ小説の中でも個人的にはかなりの上位に食い込む作品である。それくらい良かった。
特に「赤い手」の趣向の見事さには舌を巻いた。
「シンデレラの死」は、デイヴィッド・リンチ作の映画「マルホランド・ドライブ」の元ネタか?と思われるほどの絶品さである。
そして、最後の「人質」は、この短編集を読んだ人にしかわからない、ニヤリ、とさせられる趣向が凝らされており、さらりとした読後感をもたらせてくれる。
名著と言っていいだろう。