★★★★☆[映画] ハンガー・ゲーム – The Hunger Games (レビュー・感想・解説・ネタバレ)

【この記事の所要時間 : 約 8 分

スーザン・コリンズの同名ベストセラーシリーズの映画化第1弾。未来の独裁国家を舞台に、最後のひとりになるまで殺し合うサバイバルゲームに参加したヒロインの運命を描く。主演は『ウィンターズ・ボーン』のジェニファー・ローレンス。

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レビュー・感想・解説・ネタバレ

完全ネタばれなので、映画未視聴の方は、決して読まないように。

本作品はアメリカで大ヒットとなった「ハンガー・ゲーム」という小説を映画化したものである。昔、日本で大人気になった「バトルロワイアル」にそっくりという触れ込みで、原作を読まずに本作品を視聴してみた。

結論としては、バトルロワイアルに一部設定が似ている部分もあるが、大半は異なる別作品であり、ギリシャ神話をモチーフにした未来の神話を描いた作品であるということである。バトルロワイアルと似ている部分は「10代の男女が争うさまを鑑賞する」という部分であるが、ここでは古代ローマにおける見世物として闘技会で戦った剣闘士(グラディエーター)をイメージさせる馬車なども登場することから10代の男女が殺し合いという部分以外はオーバーラップするところはなかった。この男女の若者を生贄にするというシナリオは、ギリシャ神話のテーセウスによるミノタウロスの退治に由来し、バトルロワイアル由来ではないと思う。本作品は、神話をアメリカ人が好きなリアリティショーで魅せるという趣向である。変身物語などで描かれるギリシャ神話では神々が人間界を天から眺めているような描写が多いが、それを映像化した手法がリアリティショーだったというわけである。

Wikipedia – テーセウス

当時、アテーナイはクレータ島のミーノース王の勢力下に置かれており、アテーナイはミーノース王の命令によって毎年7人の若者と7人の乙女を怪物ミーノータウロスへの生贄として捧げるよう強要されていた。その事を知って強い憤りを感じたテーセウスは、クレータ島に乗り込んでミーノータウロスを退治するため、父王アイゲウスの反対を押し切り、自ら進んで生贄の一人となった。生贄を運ぶ船は、国民たちの悲しみを表す印として黒い帆が張られていた。テーセウスは他の生贄たちと共にその船に乗り込み、クレータ島へ向かった。

ギリシャ神話において自ら進んで生贄の一人となったのが英雄テーセウスである。



テーセウスのエピソードを上記のように利用しているが、主人公で弓の名手であるカットニスは、ギリシャ神話の女神・アルテミスがモチーフとなっていると思われる。アルテミスは、最高神ゼウスの子供であり、狩猟と純潔の女神である。カットニスが弓の名手であり、純潔(処女性)を持つ女性であることから、カットニスを主人公にした未来の神話であることがわかる。アルテミスは女神であり、神に死はない。よってカットニスが本作品で死なないことはある程度、見始めた段階でわかった。緊張感を出すためのカメラのブレも良かったように思う。



本作品の舞台である独裁国家パネムは、北米の未来という設定であるが、そこの独裁者であるスノー大統領は、上記写真からもわかるとおり、最高神ゼウスをモチーフにしている。そしてハンガーゲームの支配者として神の視点をもった人物として描かれている。スノー大統領にとっては、24名が最後の1人になるまで生き残りをかけて戦うサバイバルゲーム(ハンガーゲーム)は、大衆の不満のガス抜きという役割を持たせている。

そのハンガーゲームを実質的に運営するのが、ゲーム・メイカーのセネカ・クレインであるが、映画の中では、スノー大統領の使者としての役割を担っていることから、ギリシャ神話のヘルメス(ヘルメース)をモチーフにしていると考えられる。ヘルメスの特徴といえば、羽のついた帽子、羽のついたスリッパ、特徴のある杖であるが、本作品のセネカ・クレインにはどれも当てはまらない。ただ気になるのが、セネカ・クレインのひげである。この特徴のあるひげがもしかするとヘルメスの「羽」をイメージしているのかもしれないと思った。本作品の最後にて生き残りを2人にするというハンガーゲームの失敗の責任を取らされて毒葡萄を食べさせられるエピソードが挿入されが、ヘルメスもギリシャ神話においては神であるため、セネカ・クレインも実は生き残るのではないかと予想している。そして、この作品の続編に登場するのではないだろうか?



アルテミスは、ギリシャ神話においては地母神であり、子供の守護神ともされたこともあり、本作品では、カットニスが少女ルーを助ける場面が入れられていると考えられる。

バトルロワイアルを意識して観た人は、物足りなさを感じたかもしれない。それは仕方のないことだと思う。本作品は、バトルロワイアルのように、殺し合いのリアルさや残酷さ、不条理、グロテスクといったスリルを味わう作品ではなく、神話、ファンタジー作品である。よって主人公・カットニスにえらく都合がよい描写も数多い。騙し騙されるスリルや追い詰められて発揮される狂気、あっと驚くツイストなどはなく、最後もやや消化不良気味である。

しかし、これは続編があるシリーズ作品の第一作であるため、仕方のない部分なのだと思う。第一作で名声を得たカットニスが独裁国家パネムを脅かす火種になることは、スノー大統領の会話の中で暗示されており、続編はそのあたりの展開が期待できるだろう。アルテミスがゼウスの子であるという神話的エピソードとカットニスの父親が明示的に出てこないプロットから、もしかすると、カットニスがスノー大統領の隠し子的なシナリオ展開も考えられるが、生物学的な意味の父親ではなく、精神学的な意味での父親としてスノー大統領を当てはめるならば、独裁国家パネムを支配するスノー大統領にカットニスが反抗し、倒していくというオイディプスのような父親殺しの成長譚になる可能性が一番高いと思われる。ある意味一番ベタなエディプスコンプレックス克服物語というわけである。



ギリシャ神話におけるアルテミスのエピソードとしては、彼女の付き人だったカリスト、水浴している姿を見たアクタイオーン、ギリシア一の猟師で恋仲だったオリオンなどの物語があるが、アクタイオーンがアルテミスの裸を見た罰で犬に食い殺されたエピソードは、本作ではハンガーゲームの最後に残ったケイトーがカットニスに弓で射られた後に猛犬に食い殺される場面で使われているし、豪腕の持ち主でアルテミスと恋仲だったオリオンは、ピータのモチーフになっていると考えられる。ただ、ピータのモチーフがオリオンであれば、ハンガー・ゲームのどこかで、カットニスのミスによりピータを弓で射て殺してしまうという流れを見ながら予想していたが、それがなかったので続編でそのエピソードが使われるのかもしれない。

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本作品は、公開されてからある程度時間がたっていてアマゾンのレビューなどを見るとあまり評価は良くない。アメリカ版バトルロワイアルとして観た人の多くは低評価なのかもしれないが、ストーリーに面白味がないとコメントしている人はたぶんギリシャ神話を知らないのだろう。ギリシャ神話を知識として知った上で本作品を観ると様々なところでギリシャ神話のエピソードが盛り込まれており、神話と映画のリンクを読み解く面白さがあった。ハンガーゲームの細かい描写やルールなどについて、いい加減だとか面白味に欠けるといった評価があるが、はっきり言ってそんなのどうでもいいと思う。なぜならファンタジー映画、神話映画であるからだ。サスペンス映画やホラー映画であれば、そういった細かい部分は非常に重要であると思うが、本作品はそうではない。

映画を観た感想というのは人それぞれであり、正解というものはないが、どのような作品からでもより多くの愉悦を引き出せた人が映画を楽しめた人であると思う。そして個人的には、映画的愉悦を引き出すフックをできるだけ多く見つけ、それを楽しむことを目指したいと考えている。

続編は、第二弾「The Hunger Games: Catching Fire」が2013年11月22日、第三弾の第一部「The Hunger Games: Mockingjay Part1」が2014年11月21日、第三弾の第二部「The Hunger Games: Mockingjay Part2」が2015年11月20日と1年ごとに全米で公開予定となっている。

楽しみである。


ハンガー・ゲーム(字幕版)

ハンガー・ゲーム(日本語吹替版)

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