睡眠の科学 ― なぜ眠るのかなぜ目覚めるのか – 櫻井 武 (書評・レビュー・感想)

【この記事の所要時間 : 約 5 分

人生の3分の1もの時間を費やしてまで、ヒトはなぜ眠らなければならないのか?いまだ答えが出ないこの究極の問いに、睡眠研究をリードする著者が迫る!眠りが脳にもたらす恩恵、睡眠と覚醒を切り替えるしくみ、不眠や夢遊病の原因…。睡眠を科学することは、脳の根本的なシステムを知ることである。

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書評・レビュー・感想

さすがのブルーバックスである。
睡眠について現段階でわかっていることを誰にでもわかりやすく説明してくれている。
各章の扉には眠りについて偉人たちが述べた格言が1章につき1つ載せられている。これだけでも非常に楽しい。良書である。

快い眠りこそは、自然が人間に与えてくれる、やさしい、なつかしい滋養者だ - シェイクスピア
神は現世におけるいろいろな心配事のつぐないとして、われわれに希望と睡眠とを与え給うた – ヴォルテール
睡眠はいわばわれわれの入る第二の部屋であって、われわれは自分の部屋を出てその別室にいくのである – プルースト
睡眠は労働なくしても神々が与えてくれる。だが労働すればそれは三倍も甘美になる – ウェーベル
夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです – 村上春樹
眠りはまぶたを蔽うや、善きも悪しきも、すべてを忘れさせるもの – ホメロス
生きることは病気である。眠りが十六時間ごとにその苦しみを軽減してくれる – シャンフォール
睡眠は死からの負債である。睡眠は生命を維持するために、死から借りるものである – ショーペンハウエル

著者は、神経科学者であるため、夢についてフロイトのような夢診断のようなとらえかたはしていない。ただ心理学的な解釈については否定はしていない。著者の夢についてのとらえかたは以下のようなものである。

夢とはレム睡眠中に脳が活動するために起こる一種の幻覚であり、さらに極端には、レム睡眠中は脳機能のメンテナンスのために脳が活動する必要があり、そのときに生じるノイズこそが夢である。

本書では、著者が発見した「オレキシン」についても述べられている。オレキシンとは、視床下部外側野に存在するニューロンによって作り出される睡眠に移行することを防ぐ役割を持った物質である。このオレキシンが欠乏すると、急激な眠気によって脱力発作を起こすナルコレプシーという病気になることがわかっている。つまりオレキシンという物質が覚醒を安定させているらしい。
このオレキシンが持っている役割はちょっと面白いと感じた。なぜなら、このオレキシンは空腹時により多く作られることがわかっており、空腹だと眠れないのは、このオレキシンのためだと考えられているからである。このオレキシンの制御が不眠症などの解決に役立つ可能性が高いらしい。もしかすると画期的な治療薬ができるかもしれない!
また、食後に眠気がやってくるのも著者はオレキシンが原因ではないかと考えている。このオレキシンが少なくなるのは、血糖値が上がっている時である。つまり食事後、血糖値が上がると覚醒物質であるオレキシンが減少し、覚醒状態を不安定にし、それが眠気となった表われているのではないかと考えられている。
よって、本当にそうであれば、血糖値が上がらない食事であれば食後でも眠気はやってこない可能性が高い。最近はやりの糖質制限ダイエットなどでは食事の際に糖質を制限するため食後に血糖値が上がりにくいと言われている。ランチ後の眠気に困っている人は糖質制限を試してみてもいいかもしれない。
もう1つ、個人的に面白いと思ったのは、このオレキシンが、「やる気」というか「モチベーション」と関係している可能性が指摘されているからである。著者は、このオレキシンを「ハングリー精神を担う物質」という言い方をしていて、以下のように述べている。

空腹時には、血糖値が下がり、身体が痩せてきてレプチンが低下してくる。すると、オレキシン作動性ニューロンの活動は亢進する。そしてモノアミン作動性ニューロンに働きかけ、覚醒レベルを上昇させ、注意力を向上させ、交感神経も興奮させ、全身をいわば「臨戦態勢」に整えていく。野生の動物にとって、餌をとることは戦いなのだ。ハングリーなときに、心身の機能を目標にむけた行動をとるために変換する。オレキシンは「ハングリー精神を担う物質」という言い方をしてもよいかもしれない。

やる気が出ない時やモチベーションが上がらない時はわざと食事をとらずに空腹状態にすれば効果があるかもしれない。マウスの実験レベルでは、オレキシン作動性ニューロンを人為的に操作することによって強制的に睡眠/覚醒に導けることが見出されているとのことで、これをすぐに人間に応用することは難しいらしいが、将来はそれを人間に対して薬物で行うことができるかもしれない!!
日常生活への応用として本書では、食事をするとオレキシンが減少して眠たくなるのなら、寝る前に食事をすればいいかもと考える人もいるかもしれないが、逆に寝る前に食事をする習慣がつくと食餌同期性リズムが発動して、その時間の覚醒レベルが上がりかえって眠れなくなると指摘している。よい眠りをとるコツは、適度な量を就寝の4~5時間前にとること。
また、よく眠れるといううたい文句でGABAを含んだ食品が売られているが、GABAは経口で摂取しても血液脳関門に阻まれ、ほとんど脳内には入らないので効果はないとのこと。
しかし、サプリメントとして売られているグリシンは、一部脳内まで入ることができて、睡眠の質が向上するというデータもあるらしいのでまだ確実とは言えないが効果があるかもしれないとのこと。
各家庭に1冊づつの名著だと思う。
おススメ!

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