医薬品クライシス – 佐藤 健太郎 (書評・レビュー・感想)

【この記事の所要時間 : 約 4 分

全世界で七十八兆円、国内七兆円の医薬品業界が揺れている。巨額の投資とトップレベルの頭脳による熾烈な開発競争をもってしても、生まれなくなった新薬。ブロックバスターと呼ばれる巨大商品が、次々と特許切れを迎える「二〇一〇年問題」―。その一方で現実味をおびつつあるのが、頭のよくなる薬や不老長寿薬といった「夢の薬」だ。一粒の薬に秘められた、最先端のサイエンスとビジネスが織りなす壮大なドラマ。

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書評・レビュー・感想

製薬業界についての問題を指摘した書籍であるが、知らないことがたくさんあり、非常に勉強になった。業界の人には常識でもその他の業界の人にとってはまさに未知の話だと思う。当然、投資業界の人たちには知られた話なのかもしれないが。
まず、新薬を造れる国は10ヵ国もないということに驚いた。でも本書を読めばそれは当然であり、新薬を造りだすには、広い範囲のハイレベルな学問を修めた人材が数多くいないと成り立たないわけであり、そういった人材がいるのが10ヵ国程度という話である。
ただ、そういう人材がいれば新薬が造れるか?といえばそう簡単なものではないらしく、本書の中で、著者は、「創薬はギャンブルである」と何度も述べている。そのギャンブルに勝ち、新薬を造りだした企業が莫大な利益を得る仕組みとなっているが、逆に莫大な利益をもたらしていた新薬の特許が切れたタイミングで利益が大幅に下落する。ここまではビジネスとしてはある意味当たり前であるが、本書で指摘している「2010年問題」とは、多くの新薬の特許が切れるタイミングを示している。なぜこれが問題かといえば、1990年代までと異なり、それ以降、新薬の数が大幅に減少しているからである。つまり新しい収益源が造られていないにもかかわらず、現在の収益源がある時期を境にばっと消えてしまうということである。
では、なぜ新薬の数が減少しているのか?
以前は新薬の開発に莫大な費用がかかるようになったことが原因と考えられたため、企業による合併が相次いだ。ただ、これによって多くの製薬会社が合併し、メガファーマができあがり、巨額の研究資金を投入しているにもかかわらず、新薬が生まれなくなった。しかも1社2社ではなく、全世界の研究所からである。
20年、30年以上前よりも創薬技術は進歩しているのに、新薬が生まれない。
その理由のひとつに、すでにわかりやすい疾患には完成度の高い薬がいくつも出ているというものである。つまり作りやすい薬はほとんどなくなってしまい、作りにくいものだけが残っているのが現状ということである。
もうひとつの理由に安全基準の厳格化があげられる。昔にはなかった安全基準により審査が厳格になり、承認確率がぐっと落ちている。また、以前はそれなりに有効であれば新薬と認められたが、現在は、既存品よりも有効性、安全性などに明らかに改善があるものしか認められないといった事情がある。
また、大合併による弊害もあるといわれている。小規模な売り上げしか期待できない新薬ではなく、大きな売り上げが見込まれる新薬をつくるしか大会社の財布を満たすことができなくなってしまい、手堅いヒットではなく、ホームランを狙った大振りをして、惨敗するという結果になっている。
時代性というのを感じずにはいられなかった。
ただそれでも過去とは違った新薬が形を変えて生まれてくるのだろうと思う。
20世紀に入り、医学や薬学が大きく進歩して人の寿命が大きく伸びた。それによって現在の21世紀には別の問題が発生している。ある意味これは副作用なのではないか?とも思うが、創薬の研究者も同様に思うことがあるという話も書いてあった。長生きするのが本当にいいことなのだろうか?現在をはるかに超える超高齢化社会に年金は保つのだろうか?認知症の患者が激増するのではないだろうか?介護に必要な費用も膨れ上がるのではないだろうか?
製薬業界について書かれた本書を読んで、人間とは本当に不思議なものだと思った。

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