浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか – 島田 裕巳 (書評・レビュー・感想)

【この記事の所要時間 : 約 7 分

日本の仏教はさまざまな宗派に分かれており教義や実践方法が大きく異なる。にもかかわらず多くの人、とくに地方から都会に出て菩提寺とのつきあいを絶った人は関心を持たない。だが親や親戚の葬儀を営む段になって途端に宗派を気にするようになる。家の宗旨に合った僧侶を導師として呼ばねばならないからだ。そこで初めて「うちは◯◯宗だったのか」と知る。そもそも宗派とは何か。歴史上どのように生まれたのか。本書は、日本の主な仏教宗派を取り上げ、その特徴、宗祖の思想、教団の歩み、さらに他宗派との関係、社会的影響をわかりやすく解説する。

スポンサーリンク
レクタングル(大)広告

書評・レビュー・感想

最近の仏教ブームにのって軽めの仏教本を読んでみようと思い手にとったのが本書である。南都六宗から真言宗、天台宗、浄土宗、浄土真宗など歴史的な系統ごとにすっきりとまとめられており、さすが宗教学者といった感じである。一時、オーム真理教が問題になった時にミソを付けた著者であるが、学者らしく偏りが少ない内容となっていて読みやすい。
 第1章 : 南都六宗
 第2章 : 天台宗
 第3章 : 真言宗
 第4章 : 浄土宗
 第5章 : 浄土真宗
 第6章 : 臨済宗
 第7章 : 曹洞宗
 第8章 : 日蓮宗
 第9章 : その他
という章立てになっている。
南都六宗といえば、奈良時代の平城京で成立した仏教であるが、いわゆる国家仏教としての「官寺」であることは知っていたが、檀家を持っていないとは知らなかった。国家がスポンサーであるので、檀家が必要なかったようである。考えてみれば当たり前といえば当たり前かもしれない。南都六宗で有名なお寺といえば、平安時代に巨大な寺社勢力を誇った南都北嶺の南都を表す「興福寺」であるが、信者数としてはその興福寺の法相宗が約50万人で、南都六宗全体で約60万人程度にとどまっている。やはり明治時代の廃仏毀釈が大きく影響しているようである。まさに正岡子規が読んだ「秋風や囲もなしに興福寺」の様相である。奈良仏教である南都六宗と平安以降の仏教との大きな違いは、「すべての人間が悟りを開いて仏になれるか?」という部分である。南都六宗は、悟れる者もいれば悟れない者もいて、能力に応じて悟りの境地も異なるという立場であり、平安以降の仏教では、「すべての人間が悟りを開ける」という立場である。つまり出家した僧侶でなくても在家でも悟りが開けるとしている。
kofukuji.jpg
興福寺(奈良県奈良市、世界遺産に登録)
天台宗といえば、最澄が開いた平安仏教の1つであり、南都北嶺の北嶺を表す比叡山延暦寺が有名であるが、日本の仏教で多くの信者を抱える各宗派の宗祖の大半が比叡山で学んでいることから源流として大きな位置づけを担っているが、信者数としては、約300万人程度にとどまっている。理由として著者は、仏教の4つの流れである法華信仰、浄土信仰、密教、禅のうち、禅以外の3つが天台宗では行われているため曖昧なイメージとなり信仰が集まらなかったのではないかとしている。宗祖の最澄が、空海や法然、親鸞、日蓮に比べて知名度に劣る点も指摘している。瀬戸内寂聴が天台宗だとは知らなかった。そういえば、一度、初詣に延暦寺へ行ったなあ。
enryakuji.jpg
延暦寺(滋賀県大津市、世界遺産に登録)
次に真言宗であるが、高校が真言宗系の私学に通っており宗教の授業なども受けていたため多少は知っていたので特に目新しいことはなかったが、真言宗といえば、空海と総本山の金剛峰寺が有名であり、空海と最澄は同時期に中国に渡り、それぞれ日本に新しい仏教の形を持ち帰った宗祖であるが、知名度は圧倒的に空海の方にある。ただ著者も指摘しているように、空海の存在が大きすぎて、真言宗のほかの僧侶の名前が出てこないという弊害もある。ただ、信者数は天台宗系の300万人の3倍、約900万人となっている。比叡山は焼き討ちあい、多くの宝物が消失したが、高野山にはそれが残ったためかもしれない。
kongoubuji.jpg
金剛峰寺( 和歌山県伊都郡高野町)
鎌倉仏教の先駆けが浄土宗であるが、宗祖の法然は、浄土真宗の親鸞に比べると知名度で劣る。法然は親鸞の師匠なのに。不思議である。浄土宗といえば、仏教の4つの流れの1つである浄土信仰が大きなポイントである。浄土信仰とは来世信仰であり、死後に極楽浄土へ行けるとするものであるが、法然の「南無阿弥陀仏」の念仏さえ唱えれば極楽浄土が叶うという教えは、より簡単に往生できるという点で革新的である。南都六宗では一部の人しか悟りは開けないとし、天台宗ではすべての人が悟りを開けるとし、浄土宗では、より簡単に念仏さえ唱えれば極楽浄土に行けると時代を経るごとに悟りや極楽浄土への敷居が低くなっている点が面白い。そうやって信者数を増やしていったのだろうと思われる。そのため、浄土宗では極楽浄土へ行けるかが重要であるため法然が極楽浄土を果たす姿を描いた絵伝「法然上人行状絵図」などの往生を視覚化したものを民衆への教化に使っている。これが往生の証を示す必要がない浄土系以外ではあまり見られない浄土系の特徴である。天台宗をユダヤ教とすれば、そこから分かれたキリスト教(カトリック)的な感じがする。徳川家のような支配者層が浄土宗徒であったこともキリスト教と似ていると個人的には思う。
chionin.jpg
知恩院(京都府京都市東山)
本書のタイトルにもなっている日本で最大の仏教宗派である「浄土真宗」は、歴史の教科書的にいえば、一向宗である。信徒のことを門徒と呼ぶのも特徴的だと思う。宗祖の親鸞といえば、さまざまな書籍がでているカリスマでもある。親鸞は妻帯していたし、浄土真宗は僧侶の妻帯を認めてきた唯一の宗派であることを考えると、浄土宗(カトリック系)から分かれた仏教のプロテスタント系ということもできると思う。他力本願、悪人正機など悪人でも浄土が叶うとした点でよりお手軽な方へという時代性にも合致している。信徒の対象を悪人も含めてより拡大していったのが大きな宗派になった理由かもしれない。
nishihonganji.jpg
西本願寺(京都府京都市下京区、世界遺産に登録)
higashihonganji.jpg
東本願寺(京都府京都市下京区)
次が、臨済宗、曹洞宗の禅宗系であるが、仏教の4つの流れである法華信仰、浄土信仰、密教、禅のうち禅以外は、中国から日本に取り入れられた後は中国とは関係なしに独自の発展を遂げたが、禅だけは、日本に取り入れられた後も中国の禅宗との交流のなかで発展したという違いがあるとのことだった。知らなかった・・・。つまり禅宗は輸入仏教であり続けたというわけである。また曹洞宗が葬式仏教の生みの親だとは知らなかった。禅宗といえば、鎌倉五山や京都五山であるが、紅葉の時期に鎌倉五山のうち、建長寺円覚寺寿福寺に行ったことを思い出した。
最後が日蓮宗であるが、日蓮宗といえば、創価学会、立正佼成会、霊友会といった日蓮系の新宗教のイメージもあるが、仏教の4つの流れの1つである法華信仰を取り入れ、「南無妙法蓮華経」という題目に法華教の教え全体があるとして、「南無妙法蓮華経」を唱えることで成仏できるとするものである。浄土宗で「南無阿弥陀仏」の念仏を唱えれば成仏できるというのと非常に似ているが、日蓮は法然を徹底的に批判している。というか日蓮は他宗派すべてを批判している。法華経の信仰以外は否定するというのが特徴である。
いままであまり仏教に詳しくなかったが、本書を読んで知識が整理された感じになったので読んでよかったと思う。仏教の4つの流れである法華信仰、浄土信仰、密教、禅を頭に入れておくと日本仏教全体を把握する上でかなり有効だということもわかった。
 ・法華信仰

修行しなくても誰でも悟りが開けるという信仰

 ・浄土信仰

死後に極楽浄土に生まれ変わることを願う信仰

 ・密教

加持祈祷など神秘主義的な教義を教団内でのみ伝承する教え

 ・禅

実利的な効果ではなく、精神的安定や生活規範として機能するもの

神仏習合や本地垂迹、廃仏毀釈などについての本を機会があれば読んでみたいと思った。昔、学校で歴史として習った時に頭に入ってこなかったが、ある程度大人になり、本書のような新書を読んである程度理解できるようになるとは不思議。

スポンサーリンク
レクタングル(大)広告
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
スポンサーリンク
レクタングル(大)広告

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です