人参倶楽部 – 佐藤 正午 (書評・レビュー・感想)

【この記事の所要時間 : 約 3 分

「人参倶楽部」という名のいまの店を開いて今年でまる7年になる。
最初は1人ではなく、女房と一緒だった。
1980年の夏の終わり・・・・
口は堅いけれど、女にはだらしないマスターがひとりで切り盛りする。
地方都市の小さなスナック。
店に集う様々な男と女の人間模様。
それぞれの人生を背負った人々の優しさと透明な悲しみに満ちた交流を描く、愛の連作短編。

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書評・レビュー・感想

「きれいだね。」ってほめたんだ。一杯おごりながら。
「ほんとにきみはきれいな子だって。」
そしたら彼女は照れもしないで、ただにっこり笑って、
「時間よ止れ?」
そう聞き返した・・・・
小説家が19の女の子に向かって、それはゲーテの引用だったの?
なんて恥ずかしくて聞けないよ。
「ママ、ハイライトなんて置いてませんよね?」
「ええ」
「じゃあ何なら置いてるの」
「マイルドセブンなら」
「他には」
「キャビン・マイルド、ラーク・マイルド・・・・」
めんどくさいなと思っているうちに、あのひと鼻を鳴らして、
「それでいい」
ってこんどは女の子に言ったの。
「それってどれ?」
「どれでもいい、マイルド・セブンでもキャビン・マイルドでもラーク・マイルドでも、ハイライト・マイルドでも。まったく、どこ行ってもマイルドしか置いてないんだ。どいつもこいつもマイルドマイルド。きっとこのビールもキリン・マイルドだろ」
「これは普通のキリンですけど」
「じゃあオンザロックにしてくれ。マイルドにして飲むから」
「・・・・」
「冗談だよ。怖い顔してにらむなよ。煙草は、バージニア・スリム・ライト・マイルドでいい」
「そんなの置いてません」
「ママに聞かなくてわかるの?」
「ママ、バージニア・スリム・ライト・マイルドって煙草置いてますか?置いてませんよね?」
10編収録されているが、バーのマスターである<いさむ>の一人称の短編が交互にはさまれ、彼を中心にした男女の物語がくっきりと見える仕掛けになっている。次々に話者を変え、酒場に群れ集う男や女たちを描いている。人物たちの視点が変わり、それぞれが自分を語りながら相手をかがみのように照らす。
それぞれが客観視され、人物は立体的に浮き上がり、作品の舞台そのものがたちあがってくるのである。佐藤正午らしい主人公の人物設定である。ゆっくりと時間が流れながら読める。相変わらず、舞台は地方都市である。
(過去ブログからの転載シリーズ)

本エントリーは、過去に運営していたブログから転載したものであり、一部書き直しならびに追記をしてあります。

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