「分かりやすい説明」の技術 – 藤沢 晃治 (書評・レビュー・感想)

【この記事の所要時間 : 約 9 分

あなたの説明は、なぜ分かりにくいのか?そもそも「分かる」とはどういうことなのか?そこから考えて生み出された、説明上手になるための15の法則。

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書評・レビュー・感想

・説明に対する理念

分かりやすい説明とは、脳内で行われるはずの作業を、なるべく事前に代行処理し、脳内の作業負担を軽減することと定義します。それはつまり一種の「サービス」と言えます。サービスである以上、基本は、聞き手をお客様と考えるのです。
一流のホテルマンが顧客を丁寧に世話するように、説明者は聞き手が快適であるかどうか、常に注意を払う必要があります。
  「話すスピードは速すぎないか?」
  「声の大きさは最後部の人に聞こえているだろうか?」
  「スライドの字の大きさは、最後部の人に判断できるだろうか?」
  「退屈していないだろうか?」
  「詳細な話で迷わせ、話の骨子を見失わせていないだろうか?」
  「楽に理解してもらっているだろうか?」
  1.各ポイントの冒頭で、その骨子を短く話せ。
  2.ゆっくりしみ入るように話せ。
  3.ポイントを話した直後は「間」を置け。
  4.ポイント前後に問いかけを利用せよ。
  5.比喩を使え。

・タイムラグの概念(1の理由)

下手な説明は、たいていタイムラグを認識していない結果です。タイムラグとは、一般的には時間のずれですが、ここでは、聞き手の脳が説明されているテーマに慣れ、その内容を消化、処理できるようになるための準備時間をさします。
分かりやすい説明のためには、聞き手の脳が脳内整理作業に一定の時間がかかることに配慮し、そのために「待つ」または「その作業を助ける」などができなくてはなりません。
タイムラグは気づきにくい概念です。聞き手には、世界があなたと同じように見えているわけではないのです。そして1.にあるように各ポイントの冒頭でその骨子を短くはなす理由は、このタイムラグを短くすることです。つまりタイムラグを短くするために、冒頭に骨子を話すことによって、聞き手の脳内作業を助けているのです。あらゆる説明術で、「まず概要それから詳細」「まず結論それから理由」とされるわけはここにあります。

・ビール瓶の原理(2と3の理由)

2.のゆっくりしみいるように話せとは、「ゆっくり話す」に非常に似ていますが、同じではありません。これは、処理される情報のサイズに配慮した説明術です。ビール瓶の小さな口からは、短時間で大量の水を瓶の中に注ぐことはできません。脳内関所はビール瓶の小さな口です。
小さな記憶容量で、入ってくる情報を順次、整理、吟味、審査しているのです。話し手は、このゆっくりした処理速度に配慮しなければなりません。ビール瓶に水を入れるには、ゆっくり注ぎこむことです。
同じように、説明も時間あたりの情報量を小さくする必要があります。これはうまく間をとって聞き手の処理スピードに配慮する技術です。これは3.にもつながります。

・問いかけの効用(4の理由)

聞き手に問いかけるのは、説明内容を聞き手にハッキリさせる点で非常に有効な手段です。質問のタイミングには「前」と「後」があります。「前」にする質問とは、キーポイントの直前にする質問です。
キーポイントの直前で問いかけることにより、そのキーポイントを強調し、聞き手の注意を惹きつけることができます。この問いかけの役割は、次にキーポイントが来るという合図だけではありません。これから説明する話の概要説明の役割もあります。
なぜなら、
  「タイムラグの時間を上手な説明にどう活かせばよいのでしょうか?」
との問いかけは、
  「それでは次にタイムラグの時間を上手な説明にどう活かせばよいかお話しましょう。」
というのと同じだからです。「後」の質問は、学校の授業などで先生が、しばしば教えたことに関して生徒に質問する場合などがあります。これには、「復習効果」「まとめ効果」が期待できます。説明の場合も、話したことを「後」で問いかけることによって、聞き手の、理解度を確認できます。これが4.ポイント前後に問いかけを利用せよ。の理由です。

・比喩の効用(5の理由)

分かりやすい説明には、比喩は欠かせません。巧みな比喩は実に有効です。上手に比喩を使えば、聞き手に早々と理解してもらえるでしょう。比喩とは、一見まったく異なる事柄を「その本質において同じ」ことを示すことです。
「これから私が説明しようとしていることは、あなたがすでに知っているあの例と同じですよ。」というのが比喩です。なぜ、比喩が説明を分かりやすくするかは、脳内作業を考えれば分かります。脳内作業は郵便物の仕分け作業に似ています。しかし異なるところは、脳内に入ってくる情報には住所がないということです。よってどこに整理するのかという点で仕分け作業が大変になるのです。
ところが、比喩は、その情報を脳内のどの整理棚に格納すべきかを初めから指示してくれる住所ラベルです。よって仕分け作業が早くなり、すぐ分かる。よく分かる。のです。これが5.比喩を使え。の理由です。

・論理的であること(説明に説得力を持たせるために・・・・)

論理的であることは分かりやすい説明のきわめて重要な要素です。説明をする場合、聞き手の脳内で拒絶されるような非論理的な部分がないかどうかを事前にチェックし、もし、そのような部分が見つかったら、とりのぞいて置かなければなりません。
いわゆる理論武装です。これもやはり、脳内作業の事前代行サービスの1つです。理論武装が完了した説明は理路整然となります。こうして聞き手の脳内をスイスイ通過することができる「分かりやすい説明」となるのです。
論理的な説明をすることは、数学の証明から学べます。証明とは理論武装のシミュレーションです。たとえば、「二等辺三角形の2つの底角は等しい」ということをまだ認めていない人々を説得する証明(説明)です。
数学の証明では1つの主張が確実に納得してもらえたことを確認してから、次の主張にうつります。「二等辺三角形の2つの底角は等しい」を証明するための最初の主張は、「二等辺三角形の両辺の長さは等しい」になります。これに意義を唱える人に対しては、「だって、それが二等辺三角形の定義ですから。定義は疑う対象にはなりえないでしょう?」という誰にも納得してもらえる反論が可能です。
次の主張は、「二等辺三角形の頂点から底辺の中心まで線を引くと左右両側の2つの三角形に分割できる」です。さらに「この2つの三角形に注目すると、3つの辺の長さがそれぞれ同じ」と続きます。当然、この主張に意義を唱える人に対しても裏付けが用意されています。「だって、さっき両辺が等しいことは認めたでしょう。そして頂点から底辺底辺の中心に線を引いたのだから、左右の三角形の底辺の長さは同じでしょう。そして、2つの三角形が接している辺は、同じ線だから当然、同じ長さですよね。」こうして「左右の2つの三角形は、3辺の長さがそれぞれ同じ」という主張は納得してもらえることになります。
そこで次に「3辺の長さがそれぞれ等しい2つの三角形は合同」と主張します。これに意義を唱える人に対しては「三角形の合同条件」を裏付けにして説得できます。必要なら、すでに納得してもらっている合同条件にまでさかのぼって同じ説明を繰り返せばよいのです。こうして最後に「2つの三角形は合同なのだから、対応する3つの角の大きさもそれぞれ等しい。だから最初の大きな二等辺三角形の2つの底角は等しい」と言えるわけです。
これで「二等辺三角形の2つの底角は等しい」ということを、論理的に分かりやすく説明できました。理論武装のためのポイントとしては、
  1.一つ一つの説明に「裏付け」を用意する。
  2.すでに納得してもらえた説明は、別の説明の「裏付け」に再利用する。
ただし、注意したいのは、この「裏付け」を用意する対象である1つの説明の大きさです。大きな単位の説明にしか裏付けが用意されていないと、きめが粗い説明になります。小さな説明にまで用意すれば、きめの細かい説明になります。どこまで準備するかは状況と余裕しだいで変わるでしょう。

・例外

分かりやすい説明も絶対善ではありません。分かりにくい質問で鍛えるのが禅問答です。いつも悪者にされる「わかりにくさ」も禅問答では、よき師を演じているわけです。難解で意味不明な質問をされることで弟子は悩み、考え、その結果深い深い洞察にいたるわけです。「わかりにくさ」によって遠回りしながらも、深い理解を生み出しているわけです。
これは授業にもいえます。「分かりやすい授業」ばかり聞いている学生は「なぜだろう?」という自分自身で考える力を奪い、頭脳を弱くするという主張もあります。分かりやすい授業も過ぎたるは及ばざるがごとしです。安易に喜ばれることが最高のサービスではないのかもしれません。
もちろん、工夫をこらし、学生を鍛える意図をもった分かりにくい授業ならよいのですが、教師の怠慢や独りよがりに起因する分かりにくい授業は、禅問答とは似ても似つかぬ困りものでしょう。

前作「分かりやすい表現」の技術をふまえて、説明する場合に重点を置いて書かれたものである。プレゼンテーションをする上でのポイントや説得力をつけるための方法論など大いに参考になる。
前書を読んでから本書を読んだ方がいいと思われる。内容が重複しているところもあるが、前書をふまえたものがかなり多くかかれているので、理解度を深めようと考えるならそうしたほうがよいだろう。連続で読んでしまったが、納得の1冊。
これがたったの800円なのだから、買わない方がおかしいと思ってしまう。すべての人に1人1冊必要なほどの名著である。積極的にお勧めしたい。
(過去ブログからの転載シリーズ)

本エントリーは、過去に運営していたブログから転載したものであり、一部書き直しならびに追記をしてあります。

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