母にできること、父にしかできないこと。 – 藤原 和博 (書評・レビュー・感想)

【この記事の所要時間 : 約 5 分

子供たちの世界には、もともとどこからどこまでという意識はない。花のにおいをかいでいる子供には、花の香りと自分とが一体化した感覚があるのかもしれない。目的と手段の区別もない。公園にいかなければならないからといって、せっかく花を一体になっていた自分の感覚世界を、グサっと切裂いて分断してしまう大人の論理はわからない。
彼らはこうして、もともと広くてやわらかい世界観をもってうまれてきたにもかかわらず、大人たちの持つ固定的な常識や貧困な世界観によって、標準化されてゆく。さらに、考える時間を与えまいと常にせかせるような時代の流れが、彼らの存在感の自然な成長をもむしばんでいる。
日本の戦後の教育システムは、正確で迅速な業務の処理を得意とするサラリーマンの大量生産を目的としていた。これを崩して、もっと柔らかで多様な豊かさのある社会を実現するためには、学校と家族が力をあわせて、もう一度子供たちが小さいころに育む、世界観を編集しなおさなければならない。
戦後50年がそうであったように、家庭が学校の出先機関であった時代を終わらせよう。さらにいえば、父性そのものが、産業主義の出先機関であった時代を終わらせよう。私たちが父から刷り込まれた大人の常識を押し付けるタイプの父性から、子供を逃してやろう。いや、大人が固定的な常識や古い世界観で邪魔しないことが大事なのだと思う。邪魔をしなければ、子供たちには、新しい時代を作る力が備わっている。そう信じよう。
教育という言葉には、一方的な押し付けのイメージがつきまとう。むしろ、学習やまなびといった言葉のほうが、どちらが主人公かをはっきりさせる。主人公はもちろん、子供たちだ。
父ができることはなんだろう?
父とは、自分たちの父親のまねをして子供に常識を押し付ける性なのではなくて、子供とともに常識をくつがえしていくほうの性なのではないか?子供に刺激されながら、子供とともに「なんだか変だなあ」という疑問を投げかけていく性なのではないか。父らしくすることによって父になるのではなく、もっと子供っぽく常識と思われているものに「なんだか変だなあ」爆弾を投げつけてしまうこと。そのことによってこそ、父となりうる存在なのではないだろうか?自分が背負っている時代の呪縛に気づき、その呪縛から自分自身を逃がそうとするとき、子供は親を救ってくれる。子供をその古くて固い常識から逃がそうとするとすれば、自分自身への呪縛も解ける。
子は父を育てることがある。
現在、息子は小学校6年である。
最終的に中学受験をさせるかどうかは決めていないが、選択できる自由を保証されるためには、私立を受けられる最低限の実力は養っておかねば、ならないだろう。
社会や理科は、一部の学校を除いて暗記にたよった知識だけを問うてくるから、なにも今から激しく勉強する意味はないと考え、算数と国語だけをやらせている。算数は、「ロジックする力」と科学的に物事を見る「シミュレーションする力」の基礎になる。国語は、「コミュニケーションする力」のほかに、他人の身になったときどんな気持ちがするかを理解する「ロールプレイングする力」や自分の考えを他人に正確に伝える「プレゼンテーションする力」の基礎になる。
子育てに積極的にかかわる限り、小さな事件は絶えず起こる。小さな事件は唯一の正解のない問いかけである。そういった小さな事件を父親として引き受ければ、「正解のない問いかけ」が常にあなたを襲ってくる。引き受けなければ、すべて母親に託されていた貴重な問いかけだ。
子育ては、とりわけビジネスマンにとって、ビジネスとは違った正解のない問いかけを1000本ノックしてくれるまたとない人間研修である。だからビジネスマンの個人力を鍛える絶好の機会になる。失敗させ、試行錯誤を許し、その中から自分自身で考える世界でなら家族という組織の中でもじつに父にできることは多い。

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書評・レビュー・感想

著者が日本から身重の妻と4歳の息子をつれてロンドンへいき、むこうでの生活と子育ての葛藤を日記調で書いたものである。日々、著者が子供からさまざまな問いかけをされ、それを試行錯誤し、どうすればいいのか、子供になにができるのかを考えた思考記録でもある。
読者にビジネスマンが多いとみたのか、ビジネスマンの視点からものごとをとらえていくという若干のバイアスがあったが、それも味があっていいと個人的には思っている。世の中の多くの子を持つ親たちは惰性で自分が子供になにができるのかをしっかりし思考しそれを文字にすることはないだろうと思うが、この本を読んでみて、そういうことをすればよりできることも増え、考えが明確になり人生を楽しめる。そんな気がした。
(過去ブログからの転載シリーズ)

本エントリーは、過去に運営していたブログから転載したものであり、一部書き直しならびに追記をしてあります。

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