ワンダーゾーン – 福本 博文 (書評・レビュー・感想)

【この記事の所要時間 : 約 8 分

ワンダーゾーン
福本 博文
文藝春秋

本書は、日常生活と隣り合わせにある奇怪な世界、私たちの隣人が織りなす「ワンダーゾーン」を舞台にした本。全編通して共通するテーマは、現代人の依存心である。

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書評・レビュー・感想

内容は、著者があやしい。不思議だと思う事柄について潜入調査したルポルタージュである。
内容としては、
   ・心理実験室のような研修会
   ・自己啓発セミナー(催眠セミナー)
   ・前世療法と催眠療法という治療
   ・宇宙意識と交信するチャネリングセミナー
   ・南インドの予言書アガスティアの葉とサイババ
   ・自己啓発用カセットテープとその販売会社
   ・生命水「πウォーター」
   ・幻のエネルギー「波動」
   ・ネット復讐代行屋
という9つのテーマからなっていた。
心理実験室というのは、

密室に閉じ込められて、感情を吐露し合うように仕向けられる設定である。参加後、奇妙な高揚感と開放感があったが、2〜3日たつと元に戻っていたということから密室で味わった異常体験がもたらした錯覚であったにちがいない。
この訓練は、高度経済成長期に企業の管理者訓練として脚光をあびた。経営者や研修担当者は、生産性を高めるためにこの訓練が持つ攻撃性に着目してやる気を起させる企業風土を築き上げたかったためだろう。
が、日常には実験室のような環境がどこにもなく、訓練の成果を職場でいかすことが極めて難しかったことと暴力事件や精神病院に担ぎ込まれる者や自殺者が出るなどの弊害などもあり、企業では定着しなかったと思う。
日本では、家庭内の問題などで悩むとアメリカのようにサイコセラピーなどにはいかなく、信仰の世界に救いを求める人が圧倒的に多いため、カウンセリングに力を注ぐ宗教団体がある。立正佼成会では、心理実験室のように車座になって信者の悩み事をうちあけあう「法座」を重要な修行に位置付けている。

自己啓発セミナーとは、

多くは、ネズミ講と商品販売を結びつけたマルチ商法から派生した。有名なところでは「ライフダイナミックス」からライフスペースやiBDなどのセミナーが作り出された。マルチ商法は、店舗を持たぬ販売員が次々に会員を募っていきネズミ算しきに拡大するアメリカで産声をあげた商法である。
投機性が強く、投資額を回収できない被害などを続出させたためアメリカの各州では法律で禁じられるようになった。1973年に化粧品を扱うマルチ商法の「ホリディ・マジック」という企業が、規制のない日本に上陸し、日本でも会員から詐欺的行為として集団訴訟を起され、国会でも取り上げられる社会問題となった。1976年にマルチ商法を規制する法律が日本にもできる。その後、ホリディ・マジックで販売員の教育を行っていたアメリカ人のトレーナーが、セミナー会社である「ライフダイナミックス」を設立し、日本で自己啓発セミナーを開始するようになる。
セミナーの原点がマルチ商法だったので、ライフダイナミックスから派生したセミナーも参加者による強引な勧誘によって成り立っていた。セミナーに感動した者が、新たな受講者を募ってゆく。人間関係が希薄になるにしたがい、人為的な感動を分かち合う「セミナー」の需要が高まっていった。
自己啓発セミナーは、1970年代後半からアメリカで盛りあがりをみせたニューエイジ・ムーブメント(零性復興運動)に刺激されたものが多かった一種の大衆的な宗教文化運動であった。こうした潮流が「癒し」を施す各種のセミナーを誕生させるキッカケになるニューエイジ運動は、かつての世代が盲信してきた近代的合理主義や伝統的キリスト教への反発から、東洋思想や神秘主義などを積極的に取り入れ、内面世界を追求していく大衆運動になっていった。
ニューエイジ運動の中には、終末論や過激な社会変革を唱えるものも含まれていた。そのため、アメリカでは、危険なカルト集団が生まれる下地になってしまった。日本でもオウム真理教の信者にはニューエイジ思想に強く影響されたものが目立ったのである。
そして受講者を集める方法として有名人を利用するセミナーが出てくる。有名なのが、巨人の原や桑田が信奉する「自己超越成功セミナー」である。自己啓発セミナーの大半は、まず友人や知人に無料の説明会に誘われることから始まる。そこで強引な勧誘攻勢にあって、内容を隠されたままセミナーを受講し、感動体験を味わったものが今度は勧誘員になっていく。
ところが、この自己超越成功セミナーは、主催者の小林充が書いた本である「プラス・イメージ成功法」という本で受講者を集めていた。そして新聞の書籍広告が勧誘の導入口となり、新聞広告には、実演講習案内と桑田による推薦文が掲載されていた。このセミナーでは、催眠術の世界で有名であった「人橋」など暗示によって筋肉運動が支配されるためにおこる筋肉硬直などの催眠術を使っていた。
つまるところ催眠術によってだましていたわけである。ある社員教育のトレーナーは、新入社員の教育で3日間狭い部屋で閉じ込めて一睡もさせないと、自然に集団催眠のような状態になり、面白いほど教育の効果があがるという。さらに食事をとらせないと、血糖値が下がって、思考力が劣ってくるから受講者をマインドコントロールする最高の条件になるという。
アメリカ産の自己啓発セミナーは、マルチ商法の販売員を洗脳する目的で普及したので、日本の勧誘セミナーは、商品を介在しない「心のマルチ商法」にすぎない。それに開放感にひたるのは、せいぜい2〜3ヶ月である。大方の参加者は一時的には周囲から奇異な視線にさらされるが、そのあとは完全に元の状態にもどってしまう。問題は、自己啓発セミナーが心理治療の肩代わりをしている点である。

サイババ騒動とは、

2000年があけてから世界中でおこったサイババを糾弾する報道である。サイババは自らが運営するサイババ学校に通う少年や青年信者たちにオーラルセックスや肛門性交を強要するなどの性的虐待を加えていた。サイババの信者には、インドの最高権力者が名前を連ねているが、これは、インドの政治家が、サイババを信仰している理由が、世界中の信者から集めた寄付金の中から政治献金を受けているからである。
サイババは、何もない空中からものを取り出すという物質化現象などの様々な奇跡を演出してきたが、それらは奇術によるものであることが発覚した。奇術師の叔父から訓練をうけた手品によって自らを神格化してきた稀代の詐欺師だったのだ。
自己啓発や能力開発には、心理療法を用いた体験セミナーのほかにカセットテープを聞くことによって潜在能力を引き出し、願望実現をはかっていく分野がある。アメリカでは自己啓発用のテープを販売する会社が100社ほどあるが、日本では数えるほどしかない。
この種のプログラムでは、「私は必ず成功する」などというテープやCDから流れるメッセージをくりかえし聞いて、自己暗示をかけていく。いわば、催眠術を機械化したものである。有名なのが、田中孝顕氏が1979年に設立した株式会社エスエスアイである。
これは自己啓発プログラムの販売会社である。「聴覚刺激で頭の回転が驚くほど早くなる」とか
「思考は現実化する」といった本が売られている。これらの書籍は商品をうるための宣伝媒体としての役割があった。「脳力革命」や「自分を思い通りに動かす」「人生を大きく生きる」などの著書のほか、ナポレオン・ヒルの「思考は現実化する」や「成功哲学」「巨富を築く13の条件」などの訳書を出版している。
これらの本は宣伝であるため安価に設定されているが、プログラム商品自体は、地下室の集団催眠セミナーの主催者が主張するように、料金が高いほど中身が濃くなると錯覚するという特徴をとらえたように高額に設定されている。

日本アムウェイとは、

アメリカに本社をおいているマルチ商法のようにピラミッド型組織を築き、ディストリビューターと呼ばれる販売員の勧誘活動によって洗剤など家庭商品を中心に販売を展開している。販売員の収入は、商品の売上と勧誘体系におおじたボーナスからなっている。100万人のディストリビューターを抱えて順調に成長したが、96年度2122億円の売上を頂点に2000年度は1190億円になっている。
アムウェイのように、入会負担金を2万円未満に設定するなど訪問販売法上のマルチ商法から免れる営業形態を「マルチまがい商法」といわれている。

マルチ商法・宗教・セミナーなどはいろいろと関連していると以前から思っていたが、かなりの関連性があることが理解できた。ルポの形で実際に著者がセミナーや主催者・元信者などを取材しているので情報が新鮮でわかりやすかった。
こういうあやしい方面の実態やからくり・歴史などを少し頭にいれておくと人生で失敗する可能性が少し低くなるような気がする。大学生以上のある程度成熟した人にお勧めしたい本。
この本の関連書でもあると思われる著者が同じの「心をあやつる男たち」(文春文庫)も読んでみたいと思う。
(過去ブログからの転載シリーズ)

本エントリーは、過去に運営していたブログから転載したものであり、一部書き直しならびに追記をしてあります。

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