ヒュウガ・ウイルス 五分後の世界2 – 村上 龍 (書評・レビュー・感想)

【この記事の所要時間 : 約 4 分

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書評・レビュー・感想

日本国軍(UG軍)から、細菌戦の特殊部隊との同行を求められたアメリカ人ジャーナリスト、キャサリン・コウリーは、九州東南部の歓楽都市であるビッグバンで発生した感染症の説明を受けた。情報は少ないが、筋収縮発作の後に吐血し死亡させる出現ウイルスが蔓延しているという。ずれた時空の日本をおそった人類最後の審判である。

「ウイルスは結果的に進化を触媒する」

「DNAはかなり安定的で、RNAへの転写にもほとんどミスがなく、たまにミスがあっても修復する機能までもっている、DNAが不変のものだったら生物は変異しない、突然変異は、ほとんどの場合、それが起こる種にマイナスに働く、DNAが放射線や紫外線などで損傷を受けた場合、遺伝子が染色体上でジャンプしてしまった場合、いずれも重い障害となって、生物を衰弱させる、ただ生き残る上で何らかのメリットがあるという数少ない例外がある。ウイルスは、生物から生物へ、つまり植物から昆虫へ、昆虫から動物へ、動物から人間へ、そしてもう一度もとの場所へとめまぐるしく移動する。それは、遺伝子とタンパク質だけでできているウイルスだけに可能なことだ。そういうウイルスの存在は、生物界の遺伝子のプールを多様で流動的にしておくために貴重なものだ、地球が、人間の住めない環境になった時には、次の主役の誕生にきっとウイルスが手を貸すだろう、ウイルスには悪意も善意もない、結果的に、触媒の役目を果たしているだけだ。」

「親愛なるジャドソン、
また手紙を書きます、私はヒュウガ村には行きませんでした、UG兵士がヒュウガ村を焼き払ったかどうか、だから知りません、もし必要だったら彼らはそうするでしょう。サクマという兵士が帽子をくれました、今それをかぶってこれをかいています、またオクヤマは向現をくれました、今、考えるとオクヤマはわたしの感染のことを知っていたのではないかと思います。感染したのは、ミツイという兵士の生還の模様を撮影していた時だと思います。そのときは急いで化学防護服を着てしまったのです。今ではもう全身から出血があります、向現はきのうから飲み始めました、全世界でヒュウガ・ウイルスが猛威をふるうそうです、いずれNYにも、被害が及ぶのでしょうか、わたしはこれから、圧倒的な危機感をエネルギーに変える作業を日常的にしてきたか、を試されることになります、自信はまったくありません、多くの人が試されるのでしょう、もし、わたしが死んだら、UGの帽子を、プレゼントします、生き残れたらわたしが自分でかぶります祈って下さい
キャサリン・コウリー
オールドトウキョウ、陸軍感染症医学センター隔離病棟にて」

本書は、前書である「五分後の世界」を読んでいることが前提となっている。なぜならこのパラレルワールドの説明がないから。前書を読んでいないと理解に苦しむからである。前書の登場人物はこのパラレルワールドの異常性を表現するために、外部の人間である時空をこえてきた人間が主人公だった。今回は、外部ではあるが、より内部性が強いパラレルワールド内の外部である他国のジャーナリストが主人公となり、UG軍の異常性を表現している。
そしてここで問題となっているのはあるウイルス。このウイルスに関する医学的表現の細かさには圧倒された。人物描写よりもかなりのページ数がさかれている。このウイルスに感染して生還できるのは、日常的に危機感をエネルギーにかえる作業を行ってきた人だけという著者のメッセージは非常に示唆的であると感じる。
ある世界を表現するための手法はごく一般的なものであるが、内容が一般的ではなく、非常に奥深い(深すぎるのかも・・・)前書の五分後の世界を読んだすぐあとに読むことをおすすめ。
福島第一原発による放射線が問題となっている今、再読を。
(過去ブログからの転載シリーズ)

本エントリーは、過去に運営していたブログから転載したものであり、一部書き直しならびに追記をしてあります。

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