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不伝流の俊才剣士・片桐敬助は、藩中随一とうたわれる剣の遣い手・弓削新次郎と、奇しき宿命の糸にむすばれ対峙する。男の闘いの一部始終を緊密な構成、乾いた抒情で鮮烈に描き出す表題秀作の他、円熟期をむかえたこの作家の名品を三篇。時代小説の芳醇・多彩な味わいはこれに尽きる、と評された話題の本。
・麦屋町昼下がり
・三ノ丸広場下城どき
・山姥橋夜五ツ
・榎屋敷宵の春月
書評・レビュー・感想
藤沢周平らしさが出た武家物短編集である。
どれも最後は余韻を残して終わっており、非常に味わい深い印象である。4編すべてが、武家物であり、藩内の権力争いや因縁が原因となって命を懸けた修羅場となっている。当然、出てくるのは藩上層部に女と金である。
主人公は全員、かなりの剣の使い手であるが、過去において、本来の実力を発揮できずに不覚をとっていたり、その腕をうまく使えておらず、藩内においても主流派からははずれ、屈折した気持ちをもっているという共通点がある。
いずれもミステリアスな展開の中で、最後に決闘へと行き着く。
江戸時代のサラリーマンの悲哀を感じさせるプロットだが、現代のサラリーマンにはない「剣技」によって道が開かれる点に爽快さを感じるのかもしれない。藤沢周平らしい濃厚でしっとりとした読後感。
満足。